「誰が相手でも変らないですね。いつもの自分のスタイルで淡々と勝ちます。」
ディフェンディングチャンピオンの森善十朗は今年の中量級に出場する顔ぶれを見て決して気負うでもなく淡々と語った。
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今年、24回目を迎える全日本ウェイト制大会は4年に一度の世界大会の最終予選ということで歴代の全日本王者が多数出場し代表権を争う。
並みの選手なら気負いや恐れもあるところだが森の表情には別段変った様子は無い。
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土曜夕方5時。選手クラス。
新宿道場で城西支部から全日本ウェイト制大会に出場する選手たちが汗を流す。
1年程前、参加している中で全日本に出場する選手は森一人だった。
当時はスパーリングの相手もままならない中で、結果を残すことができたのは彼の非凡な才能によるものだろう。しかし、ウェイト制では2年連続の決勝進出を果たしながらも無差別の全日本では入賞を逃している。
「今は顔ぶれが充実して練習でも怖さがあります。以前は練習で追い込まれることは無かったけど、それが負けた原因かもしれないですね。」
まさに運命と言うべきか、現在の選手クラスには、個性豊かな選手が顔を揃える。
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選抜試合優勝で出場権を勝ち取ったベテラン西村直也、過去他流派で全国2位の実績を誇る長谷川泰史。全日本大会緒戦で関東王者徳元選手を撃破した富本大治郎。福井大会を全て技有か一本で優勝して、この春から移籍してきた鎌田翔平。選抜試合で入賞はならなかったものの鮮烈な一本勝ちデビューを飾った16歳の小林大起。
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1年前と比べると格段に選手層が厚くなったことが、森が試合に向けて落ち着いていられる理由の一つであることは間違いない。この日の選手クラスもいつもと同じように、縄跳びから始まり、シャドー、打ち込み、打たせ稽古と続く。
クラスを仕切るのは森の会社の上司でもある山辺光英。仕事でも妥協の無い彼は、
選手たちにもメニューをこなすだけではなく目的意識を持つことを厳しく指導する。
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檄を飛ばされた選手は、試合に近い緊張感を持ってミットに技を繰り出していき道場内に激しい打撃音が響き渡る。
さすがに全日本に出場する選手の技は、一般道場生と迫力が違う。
開始後1時間ほどでスタミナ稽古に突入し、選手達に苦悶の表情が浮かぶ。
インターバル中に補強を行なう為、文字通り息をつぐ暇さえない。
選抜大会で優勝した最年長43歳の西村は動きが止まることなく、常に気合を入れて他の選手を引っ張っていく。
スパーリングの時間になると更に練習に熱気を帯びていき、何人か倒されている場面も珍しくない。試合さながらの緊張感が漂う。
スパーリングが終わり、疲労がピークに達しているときにミットでのスタミナ練習を行なう。
メニューは日によって異なるが、限界まで追い込むことは毎回変らない。
極限状態になりながらも選手同士が声を出しながら練習を盛り上げる光景からは選手たちの意識の高さが伺える。
最後のメニュー、通称「西村式腹筋」でギリギリまで追い込んで、この日約4時間の練習が終了した。
練習後にも各々練習の反省や自主トレを開始する姿は、各選手が支部を代表するという責任感を感じることができる。城西支部の看板を1人で背負う負担が無くなったことも、森の冒頭にもある落ち着きに繋がっているのだろう。
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6月。
「チャンピオン製造工場」の代表というプライドを持った選手たちが大阪に乗り込む。
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