1人、また1人と益荒男は集った。
笑っている者、悲壮感を漂わせている者、眉間にしわを寄せている者、淡々としている者、眠そうな顔をしている者、等、皆の顔は千差万別、十人十色。
ここ大阪の地で、益荒男たちの夢を賭けた死闘が始まった。
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前回の中量級王者、森善十朗弐段は今年で三回目の大阪でのウエイト制となる。
初出場の一昨年は二位、去年は優勝とすばらしい成績を残している。
だが今回のウエイト制は去年、一昨年とはまるで別の意味合いを持っていた。
それは今年の秋に控えた全世界空手道選手権大会の出場権が懸かっていること……。
夢であり目標である世界大会が懸かっていること……。
東京城西支部に移籍して三年半。
機は熟せり……!
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朝会場に到着し、他の東京城西支部の代表及びセコンドと合流する。
東京城西支部の代表は
軽量級:西村直也 弐段
中量級:長谷川泰史 弐段
森善十朗 弐段
軽重量級:富本大治郎 弐段
鎌田翔平 初段
の以上の5名が東京城西支部の代表である。
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つかの間の談笑の後、選手の目に鋭さが増してきた。
そして全体のアップが始まる。
全体のアップは山辺先生、八木沼先生が指揮を執り、シャドーを3分2分2分で行う。
皆、ラスト30秒ではめいっぱい身体を動かし息を上げていた。
全体で行うアップはシャドーのみ。後は自分の試合順に従いそれぞれ行う。
シャドーが終わり、西村先生を中心に皆で拳を合せそれぞれの健闘を誓い合い、士気を鼓舞させる。
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そして大会一日目が始まった。
強豪は実力を見せ付け、無名の者は下剋上を果たし、業師は魅せ、力自慢は驚愕させる。
勝者と敗者が試合ごとに生まれるトーナメント。
森先輩はトーナメントの最後尾。
最初の試合開始は朝集合してから5時間あまり経っていた。
一回戦はシードで二回戦からだ。動きがまだ硬いのか決め手がなかなか掴めない。後半上段前蹴りがヒットし、その後パンチのラッシュで勝利した。
しかし……城西の代表選手は善戦するものの、次々に敗れてしまう。
軽重量級、富本先輩は一回戦、鎌田先輩は三回戦で両者とも試合の主導権を掴みきれず敗退してしまう。
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中量級、長谷川先輩は相手を攻めきれず二回戦で敗退。
軽量級、一回戦西村先生は素晴らしい動きで相手を圧倒。二回戦も勝利し、三回戦に勝利すれば一昨年の王者尾崎亮選手との対決だったがここで力尽きる。
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先輩方の今回の大会は終了し、後を森先輩に託した……。
森先輩の三回戦は胴廻し回転蹴りを互いに頻繁に放つもののヒットせず。決め手になったのは胸骨へのパンチからミドルキックへのコンビネーションだった。
森先輩は二日目へと駒を進めた。 |
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雨が降っていたらしい。試合のさなかで全く気づかなかった。前日そういえば雷鳴が轟いていた。この大会に賭ける男たちの意志と意志とのぶつかり合いが、天を刺激していたのか。
こうして大会一日目は終了した。
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二日目が始まった。
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この日は晴れていた。
激戦区である中量級においてこの日最後まで試合をする選手は4試合闘わなければならない。
開会式の前に中量級の選手は4回戦があった。
森先輩は昨日よりも動きにリズムがあり、試合は完勝といってよい内容であった。
ベスト8が決まり、開会式が始まった。なんと森先輩は選手宣誓の大役を負っていたが無難にこなしていた。
優勝候補になると気を使うのは試合だけでないようだ。大役を乗り越え、選手はまた風格を身に着けるのであろう。
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今回森先輩は試割りを失敗していた。が、先輩は歯牙にもかけぬ様子であった。
準決勝の相手は兵庫支部の長野義徳選手だ。前日初戦を一本勝ちし、四回戦に総本部の佐久間選手に競り勝った強敵であった。
長野選手は蛇のようにあご先へ伸びてくる上段前蹴りを放つが決定打にはならず、下段回し蹴りを効かせ試合を優位に進めた森先輩の快勝だった。
森先輩の動きはどんどん良くなっていくように思えた……。
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準決勝進出。相手は今大会華麗かつ恐ろしいキレを誇る技で技有り・一本を量産した城北支部の渡辺理想選手だった。
森先輩は城北支部に出稽古にいっており、渡辺選手とは普段から練習している間柄。
試合開始直後、渡辺選手が恐ろしいほど打点の高い跳び後ろ回し蹴りを放つ。
かわす先輩。
そして胴廻し回転蹴りで応酬。
当たらない。
そして試合が開始されちょうど30秒になろうとしているとき……!
ボコン……!!
森先輩の拳が渡辺選手の顎を貫いた!
崩れ落ちる渡辺選手。
立ち上がってこない。
担架で運ばれる。
応急処置をしても渡辺選手は闘える状態ではなく、森先輩は顔面殴打による反則負けを宣告された……。
この瞬間、中量級の二位までに与えられる世界大会の切符はもはや手に入らなくなった。
そのときの先輩の胸のうちには何が到来したのだろう。
恐らく、無念、後悔、絶望等、だと思う。
まだ三位決定戦が残っていたが、おおよそ闘いの前における精神状態ではなかった。
だが、三位決定戦の相手はあの男だった……。
そう、その男は先輩の宿命の相手。
準決勝では城北支部の鈴木雄三選手に試し割りの差で敗れている。
森先輩は、一昨年が二位、去年が優勝という成績をおさめていることは前に述べた。
そう、その一昨年、去年と二度にわたる全日本中量級決勝の相手、松岡朋彦選手だった……。
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最後の試合に必ず立ちはだかる松岡選手。
今年は決勝ではなかった。
世界大会の切符を逃した二人による三位決定戦。
その意味でこの試合両者が賭けたものは切符ではなく、プライドであった。 |
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森先輩の気持ちは果たして切り替わっていたのか。
先輩は試合場を見ていた。
そして試合が始まった……。 |
両者決定打が出ないまま1分が経過したとき、松岡選手のミドルキックを掴んだ形となり、待てがかかる。
開始線に戻り再び試合続行。
そのとき先輩は雄叫びをあげた!
そこからは最も効果的と思えるコンビネーションを速く、そして強く松岡選手の身体に叩き込んだ!
間合いは完全に森先輩のものだったのではなかろうか。
松岡選手は後手にまわる場面が多くなる!
だが試合終了間際、松岡選手の、ピンポイントに当たり流れを一気に変えてしまう上段回し蹴りが先輩の即頭部にヒットした!
一昨年はこの上段回し蹴りが敗因をつくったのだ。
しかし流れは変わらなかった。
森先輩の怒涛の攻めはそのまま続く!
突き・蹴りが雨霰の如く降り注ぐ!
そして試合が終わった。
森先輩の勝ちだった。
三位決定戦を渾身の力で闘った森先輩の姿は何より光って見えた。
まだ僅かながら世界大会の切符は残っているという。
その可能性に賭け、森先輩は7月8日関東大会に出場することを決意。
再び闘いに挑む。
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先輩の試合を今回間近でみていた明治・早稲田大学の同好会の面々は何を思っただろう。
恐らく羨ましかったのではないか。
空手という舞台で力いっぱい踊る先輩をみて、少なからず皆刺激を受けたことだろう。
そして自分らが将来踊るであろう舞台を考えたのではないだろうか。
空手の世界に年齢をいうことはあまりいいことではない。
しかし自分らと同じ世代の人間があれだけ光を放っているのを見てなにも感じぬはずはない。
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セコンドで大活躍した同好会メンバー |
嗚呼、我が星はいずこにありなん
そしてそれぞれの闘いは続く。今回参加した選手、セコンド、審判の先生、手伝ってくださった方々、大阪まで応援にきてくれた皆さん、影で活躍した同好会のメンバー、短くも激しく燃えた二日間本当にお疲れ様でした。
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上京時から森選手のセコンドを務め、本レポートの著者である田口雄 |
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